2020年アメリカ大統領選~トランプvsバイデン~の英語
大接戦&混戦の末、2020年11月3日の投票日から4日経って、ようやく激戦州の投票結果が明らかになり、民主党バイデン候補からの勝利宣言が出た今回のアメリカ大統領選挙。通常であれば相手側から敗北宣言が出て幕引きとなりますが、共和党トランプ大統領が訴訟を起こして裁判で争う姿勢を見せているため、いつ決着が着くのかは明らかになっていません。
そんな異例づくめの今回の米大統領選挙を、Twitterなどで使われた英語を紹介しながら振り返ります。
これまでも自分の主張はTwitterを使って積極的に発信してきたトランプ大統領。大統領選挙の結果を巡っても多くのツイートが発信されていますが、内容に偏り(客観的な事実に基づかない)があるため、Twitter社から「This claim about election fraud is disputed(この選挙の詐欺に関する主張は争点となっています)」といった注意書きが付けられていました。トランプ大統領のTwitterはこちら。
私はこの選挙に勝った。大差をつけて!
まずこれは、自分の劣勢が明らかになった11月7日に発信した、すべて大文字で強調の意味を込めたツイートです。
“won this election” は「この選挙に勝った」で、won は「勝つ」という意味の動詞 win の過去形です。その後に、どのくらいという程度・差を表す時の前置詞の by を使った表現で “by a lot”「大差で」と言っています。他に「大差で勝つ」と言う時には、「差」という意味の単語 margin を使って、“win by a large/big/wide margin” という表現があります。反対に「僅差で勝つ」と言う時には、“win by a small/narrow margin” という表現の他に、“win by a hair” や “win by nose” という言い方があります。a hair(髪の毛1本)というごくわずかな差や、競馬などで鼻先の差で勝つことから来ています。
監視人たちは集計室に入ることを許されなかった。私は選挙に勝った。7100万の合法な票を得た。我々の監視人たちが見ることを許されなかった間に悪いことが起こった。今まで起こったことがない。何百万もの郵便投票用紙が依頼しなかった人たちに送られたのだ!
上のツイートのすぐ後に、こちらもすべて大文字で強調の意味を込めたツイートです。
“observer” は「監視員」という意味で、不正が行われないように開票をチェックする監視員たちを指しています。この監視が適切に行われず、開票時に不正が起こった結果、自分が負けたように見える、というのがトランプ大統領の主張です。ただし、どのような不正が行われたのかや、それを裏付ける証拠などは一切示しておらず、このツイートでも“bad things happened”「悪いことが起こった」と何とも曖昧な表現です・・。
トランプが選挙活動中からさかんに言っていたのが、ここでも書かれている “mail-in ballots”「郵便投票」で不正が行われている、という主張です。トランプに投票する共和党支持者は、トランプのこれまでの主張と同様に新型コロナウイルスをあまり警戒しない傾向にあり、投票所へ行って投票するのに対し、バイデンに投票する民主党支持者は投票所での人の接触を警戒して郵便投票で票を投じるという傾向がありました。実際の選挙結果でも、投票所での投票数ではトランプがリードしていた州で郵便投票数によってバイデンに逆転されるという事象が起こったことにより、トランプはこの郵便投票の集計に不正があると訴訟を起こしています。
“ballot” は「票、投票、投票用紙、投票総数」という意味で使われる、選挙でよく聞く単語です。他に「郵便投票」は “mail-in voting” や “vote-by-mail” という表現が使われます。
我々は大きくリードしているが、彼らが選挙を盗もうとしている。我々は決して彼らがそうするのを許さない。投票所が閉まってからは票は投じられない!
さかのぼって投票日翌日の11月4日、接戦を繰り広げている時のツイートです。大文字で強調しているところには下線を引きました。
自分がリードしていた州で徐々にリードを奪われ逆転される状況を、選挙に勝っていたのに「盗まれようとしている」と表現しています。この大統領の言葉に基づいて、トランプ支持者たちは“Stop the Steal”「盗みをやめろ」をスローガンにデモを行いました。
反対にバイデン支持者たちは、“STOP THE COUNT”「集計をやめろ」というトランプの主張に反対する “Count Every Vote”「すべての票を集計しろ」をスローガンにデモを行いました。
一方の対する民主党のバイデン候補は、こちらもオバマ大統領の時代に副大統領を務めた経験を持つ重鎮らしく、選挙の開票中も勝利への希望を示しながらも冷静なツイートを繰り返しました。勝利宣言を行った現在は、Twitterの紹介文に President-Elect「次期大統領」と書いています。バイデン次期大統領のTwitterはこちら。
Chip in to help fund our election protection efforts across the country:
ドナルド・トランプがこの選挙の結果を決めるのではないし、それは私でもない。アメリカ国民が決める。それが我々がバイデン・ファイト・ファンド(基金)を立ち上げた理由だ ー すべての票が確実に集計されるために。
全国で選挙を守る力に資金を供給するために寄付を。
トランプが票の集計を止めるように呼びかけるのに対して、すべての票を集計するための基金の設立と寄付を呼びかけたバイデンのツイートがこちら(11月5日)。アメリカは訴訟社会であり、意見の対立は裁判に持ち込んで決着をつけます。アメリカ大統領選の結果を巡って裁判が起こされるのも今回が初めてではありません。裁判に勝つには優秀な(=費用の高い)弁護士団が必要になるため、寄付で資金集めを行おうとしているんですね。
一文目は、nor を使った倒置の文です。否定文の文に続いて、nor (neither) + 動詞 + S(主語) で「Sもそうではない」と否定の意味を続ける表現です。
基金の目的は “to ensure every vote is counted” 「すべての票が集計されることを確かにする」で、やはり民主党側にとって今回の選挙では “Count Every Vote” が大きなスローガンになっていることが伺えます。
Chip in to make sure every vote is counted:
ドナルド・トランプは票が数えられるのを止めに裁判に訴えようとしている。我々は反撃するために歴史上最も大きな選挙を守る力を集めた。そしてあなたの助けを必要としている。
すべての票が確実に数えられるように寄付を。
トランプが大統領選挙の結果を法廷闘争(legal fight)に持ち込もうとしているのに対して、バイデン氏は11月6日にこう呼びかけています。トランプも自身の弁護団支援のための寄付を呼び掛けているようで、大統領選挙の決着はお互いの支援者+お金も巻き込むことになりそうですね・・。
前日のツイートと似た内容になっていますが、すべての票が数えられることを「確実にする」という意味で “make sure”が使われています。また、“fight back” という表現が使われていることにも注目です。バイデン側は自ら闘いを仕掛けたわけではなく、トランプからの闘いに「反撃する」ので、fight ではなく fight back が適切なんですね。
The process is working.
The count is being completed.
私は人々に平静を保つようにお願いする。
プロセスは動いている。
集計は完了されつつある。
3日の投票日を2日過ぎてもまだ結果が明らかにならず、人々の不安や不満が高まっていた11月5日のバイデン氏のツイートです。
calm は「落ち着いた、穏やかな」という意味の形容詞で、“stay calm” で「冷静を保つ」という意味になります。なかなか確定はしないけれど、票集計のプロセス(処理)は「確実に動いている」ということを work という動詞を使って表わしています。work には「正常に機能・動作している」という意味があります。そして、バイデン支持者たちが願っているすべての票の集計も、complete(完了)されようとしていると言っています。ここで “The count is completed.” だと「完了した」という状態、つまり既に完了したという意味になってしまうので、まだ完了していないけれどもまもなく完了されようとしているという意味を表すために現在進行形の受動態の表現になっています。
まだ結果が出ず、もちろん勝利宣言も行う前の11月5日ですが、勝利の可能性を考えたと思われるバイデン氏のメッセージです。
“Let me be clear.” は「はっきり(明確に/誤解のないように)言わせてほしい」という意味で、その後に話すメッセージを強調するためによく使われるフレーズです。形容詞 clear は「はっきりした、明快な」という意味で使われており、let A(人) … で「Aが…するのを許す/Aに…させる」という意味なので、直訳すると「私がはっきりする(話す)のを許してほしい/私にはっきり話させてほしい」という意味になります。自分は民主党代表の大統領候補として選挙活動をしてきたけれども、大統領になった場合は『民主党支持者のための大統領』ではなく『(共和党支持者も含めた)全アメリカ国民のための大統領』として国を治める、というメッセージを発しました。これだけ接戦となった大統領選挙でもアメリカの分断がはっきりしましたが、その分断を深めるのではなく、融和・統合する方向に導こうとするバイデン次期大統領の早めのメッセージだったのかな、と思います。