トランプ次期大統領を非難したメリル・ストリープのスピーチ ~英文・日本語訳・解説付き~

2017年のゴールデングローブ授賞式での、メリル・ストリープのトランプ次期大統領を非難するスピーチは、日本でも大きな注目を集めました。
トランプ大統領の就任式も目前に迫っていますが、当日も大規模なデモが予定されるなど、選挙後から続いているアメリカの混乱は、ハリウッドで最も尊敬を集める女優の1人であるメリル・ストリープのこの発言にも表れていると言えます。
スピーチの英文とその日本語訳を、解説付きで紹介します。

I love you all. You’ll have to forgive me. I’ve lost my voice in screaming and lamentation this weekend. And I have lost my mind sometime earlier this year, so I have to read.
皆さんを愛しています。許してくださいね。先週末、叫んだり嘆いたりして声が出なくなってしまったのです。それから、この1年のどこかで、正気も失ってしまったので、書いてきたものを読ませてください。 

Thank you, Hollywood Foreign Press*1. Just to pick up on what Hugh Laurie*2 said: You and all of us in this room really belong to the most vilified segments in American society right now. Think about it: Hollywood, foreigners and the press.
ハリウッド外国人映画記者協会の皆さん、ありがとう。ヒュー・ローリーが先ほど言ったように、この部屋にいる皆さん、私たち全員はいま、米国社会のなかで最も中傷されている層に属しています。考えてみてください。ハリウッド、外国人、記者ですよ。

But who are we, and what is Hollywood anyway? It’s just a bunch of people from other places. I was born and raised and educated in the public schools of New Jersey. Viola*3 was born in a sharecropper’s cabin in South Carolina, came up in Central Falls, Rhode Island; Sarah Paulson*4 was born in Florida, raised by a single mom in Brooklyn. Sarah Jessica Parker*5 was one of seven or eight kids in Ohio. Amy Adams*6 was born in Vicenza, Italy. And Natalie Portman*7 was born in Jerusalem. Where are their birth certificates?*8 And the beautiful Ruth Negga*9 was born in Addis Ababa, Ethiopia, raised in London — no, in Ireland I do believe, and she’s here nominated for playing a girl in small-town Virginia.
しかしそもそも、私たちは何者なんでしょう。ハリウッドとは何なんでしょう。それは、他の場所から来たたくさんの人たちの集まりでしかありません。 私はニュージャージーで生まれ育ち、そこの公立学校で教育を受けました。ヴィオラ(デイヴィス)はサウスカロライナの小作人の小屋で生まれ、ロード・アイランドのセントラルフォールズで躍進しました。サラ・ポールソンはフロリダで生まれ、ブルックリンでシングルマザーに育てられました。サラ・ジェシカ・パーカーはオハイオで7人か8人兄弟の一人として育ちました。 エイミー・アダムスはイタリアのヴィチェンツァで生まれました。ナタリー・ポートマンはエルサレムで生まれました。 彼女たちの出生証明書はどこでしょう?あの美しいルース・ネッガはエチオピアのアディス・アババで生まれ、ロンドンでーいえ、アイルランドだったと思います─で育ちました。そして、ヴァージニアの小さな町の女の子役で受賞候補になってここにいます。

Ryan Gosling*10, like all of the nicest people, is Canadian, and Dev Patel*11 was born in Kenya, raised in London, and is here playing an Indian raised in Tasmania. So Hollywood is crawling with outsiders and foreigners. And if we kick them all out you’ll have nothing to watch but football and mixed martial arts, which are not the arts.
ライアン・ゴズリングは、全てのとてもいい人たちがそうであるように、カナダ人ですし、デヴ・パテルはケニアで生まれ、ロンドンで育ち、今回はタスマニア育ちのインド人を演じています。そう、ハリウッドにはよそ者と外国人がうじゃうじゃしているんです。その人たちをみんな追い出したら、アメフトと総合格闘技(マーシャルアーツ)しか見るものはなくなりますが、それは芸術(アーツ)ではありません。

<<解説>>
1. メリル・ストリープが初めに感謝を述べているHollywood Foreign Press(ハリウッド外国人映画記者協会)は、このゴールデングローブ賞を決める投票を行っている団体です。ゴールデングローブ賞は、その年の最も優れた映画とテレビドラマに授与される賞で、世界的にも有名な「アカデミー賞」(いわゆるオスカー)の前哨戦とも呼ばれ、アカデミー賞の結果を占う賞としても注目されます。
2. テレビムービー部門で助演男優賞を受賞したヒュー・ローリーのことです。
3. ヴィオラ・デイヴィスは、映画『FENCES』で助演女優賞を受賞しました。
4. サラ・ポールソンは、テレビムービー部門の『アメリカン・クライム・ストーリー/O/・J・シンプソン事件』で女優賞にノミネートされました。
5. サラ・ジェシカ・パーカーは、TV『Divorce/ディボース』で女優賞にノミネートされました。TV『Sex and the City』で主役のキャリーを演じた女優です。
6. エイミー・アダムスは、映画『メッセージ』で女優賞にノミネートされました。
7. ナタリー・ポートマンは、映画『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』で女優賞にノミネートされました。
8. なぜここで「出生証明書」という言葉が出てきたのかというと、トランプ氏は前回の大統領選の時、オバマ大統領の出生地が米国内ではないのではという疑惑を持ちだし、大統領の出生証明書を巡って大騒ぎしたからです。この「出生証明書」という言葉を出すことによって、トランプ氏に対する非難をにおわせています。
9. ルース・ネッガは、映画『ラビング 愛という名前のふたり』で女優賞にノミネートされました。
10. ライアン・ゴズリングは、映画『ラ・ラ・ランド』で男優賞を受賞しました。
11. デヴ・パテルは、映画『LION』で助演男優賞にノミネートされました。

They gave me three seconds to say this, so: An actor’s only job is to enter the lives of people who are different from us, and let you feel what that feels like. And there were many, many, many powerful performances this year that did exactly that. Breathtaking, compassionate work.
私に与えられた3秒間に言いたいのはこのことです。役者の唯一の仕事は、自分たちと異なる人々の人生に入っていくことで、それはどんな感じなのかを見ている人に感じさせることです。まさにその役目を果たした力強い演技が、この1年もたくさん、いたくさん、たくさんありました。息をのむ、心のこもった仕事ばかりです。 

*12But there was one performance this year that stunned me. It sank its hooks in my heart. Not because it was good; there was nothing good about it. But it was effective and it did its job. It made its intended audience laugh, and show their teeth. It was that moment when the person asking to sit in the most respected seat in our country*13 imitated a disabled reporter. Someone he outranked in privilege, power and the capacity to fight back. It kind of broke my heart when I saw it, and I still can’t get it out of my head, because it wasn’t in a movie. It was real life. And this instinct to humiliate, when it’s modeled by someone in the public platform, by someone powerful, it filters down into everybody’s life, because it kinda gives permission for other people to do the same thing. Disrespect invites disrespect, violence incites violence. And when the powerful use their position to bully others we all lose. O.K., go on with it.
しかし、今年私に衝撃を与えた一つの演技がありました。私の心にはその釣り針が深く刺さったままです。
それがいい演技だったからではありません。いいところなど何ひとつありませんでした。しかしながら、それは効果的で、役目を果たしました。想定された観衆を笑わせ、歯をむき出しにさせたのです。
それは、我が国で最も尊敬される座に就こうとするその人物が、障害をもつリポーターの真似をした瞬間のことです。
特権、権力、反撃する能力において彼がはるかに勝っている相手に対してです。それを見た時、心打ち砕かれる思いがしました。 そして、その光景がまだ頭から離れません。それが映画の中ではなくて、現実の出来事だからです。
このような他者を侮辱する衝動は、公的な舞台に立つ者、権力を持つ者によって表現されると、他の人も同じことをしていいという許しを与えるようなことになることによって、人々の生活に浸透することになるのです。
無礼は無礼を招きます。暴力は暴力を駆り立てます。権力者が他者をいじめるためにその立場を利用するとき、私たちはみな負けるのです。 さあ、やりたければやればいいでしょう。

12. ここから、メリル・ストリープは昨年の大統領選中に障害を持ったリポーターを中傷するトランプ氏の演技(真似)を非難します。
13. the person asking to sit in the most respected seat in our country訳すと、「我が国で最も尊敬される座に就こうとするその人物」。名前を出してはいませんが、つまりトランプ次期大統領を指しています。

大統領選中は民主党のヒラリー候補を公に支援していたメリル・ストリープなので、今回の授賞式のスピーチでは何らかの発言があると見られていましたが、はっきりとした非難の言葉は大きく報道され、今度はそれに対してメリル・ストリープを「最も過大評価されている女優」と攻撃するトランプ氏のツイートも取り上げられました。これまでになく過激な大統領の誕生によって生じているアメリカ国内の摩擦はまだまだ続きそうな予感がしますね。

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