オバマ大統領の就任演説を英語で聞いて読む 彼がアメリカ大統領となって訴えたこととは?

2009年1月20日にワシントンで行われたオバマ大統領の就任演説(Inaugural Speech)のスピーチ全文、日本語訳、解説を紹介します。
大統領選の頃から “Yes, We Can” の合言葉を使い、素晴らしいスピーチで人々の心をつかんでいたいたオバマ氏の就任演説は、アメリカのみならず日本でも注目されました。
この大統領就任演説においては、選挙戦の頃のスピーチと比べて、わかりやすい言葉の繰り返しというスタイルが変化したという印象でした。ネイティブスピーカーではない私たち日本人にとっては、聞いて理解するのが少し難しくなったと言えますが、現在の危機的な状況の下で大統領に就任したということから、今、アメリカが、そしてアメリカ国民がどうあるべきか、どうするべきかを訴える内容となりました。アメリカの歴史を「我々の旅」と表現し、アメリカの過去、現在、未来を強く意識させています。

上の映像の再生ボタンを押して、スピーチを聞きながら、下の英語の原文、日本語による訳と解説をお読みください

My fellow citizens:

国民の皆さん

I stand here today humbled by the task before us, grateful for the trust you have bestowed, mindful of the sacrifices borne by our ancestors*1. I thank President Bush for his service to our nation, as well as the generosity and cooperation he has shown throughout this transition.

私は今日この場に、我々の前にある課題に対して謙虚な気持ちで、あなた方が授けてくれた信頼に対して感謝し、我々の先祖が負った犠牲に対して考えながら立っています。ブッシュ大統領の我々の国に対しる奉仕に、彼がこの政権移行を通して示してきた寛大さと協力と併せて感謝します。

Forty-four Americans*2 have now taken the presidential oath. The words have been spoken during rising tides of prosperity and the still waters of peace. Yet, every so often the oath is taken amidst gathering clouds and raging storms. At these moments, America has carried on not simply because of the skill or vision of those in high office, but because We the People have remained faithful to the ideals of our forbearers, and true to our founding documents.

これで44人のアメリカ人が大統領としての宣誓を行いました。これらの言葉は、繁栄の上げ潮の時も平和の静水の時も語られました。しかしまた、これらの言葉は、集まる雲や荒れ狂う嵐の中でもしばしば語られました。これらの瞬間でも、高官のスキルやビジョンによってのみではなく、我々国民が、我々の祖先の理想を信じ、我々の建国文書に忠実であり続けたことによって、アメリカは進んできたのです。

So it has been. So it must be with this generation of Americans.

そのようにきたからこそ、アメリカの現世代もそうでなければなりません。

That we are in the midst of crisis is now well understood. Our nation is at war, against a far-reaching network of violence and hatred. Our economy is badly weakened, a consequence of greed and irresponsibility on the part of some, but also our collective failure to make hard choices and prepare the nation for a new age. Homes have been lost; jobs shed; businesses shuttered. Our health care is too costly; our schools fail too many; and each day brings further evidence that the ways we use energy strengthen our adversaries and threaten our planet.

我々が危機の真っ只中にあることは、今十分に理解されています。我々の国は、暴力と憎しみの広大なネットワークに対する戦争を行っています。我々の経済は非常に弱っています。それは、ある人々の欲と無責任の結果ですが、また、厳しい決断をして、国を新しい時代に備えさせることへの我々全体の失敗の結果でもあります。家は失われ、仕事は減り、会社は閉鎖されました。我々の医療は高すぎるし、我々の学校は失敗しすぎています。そして日々、我々のエネルギーの使い方は敵対者を強くさせ、我々の惑星を脅かしているという証拠が現れています。

These are the indicators of crisis, subject to data and statistics. Less measurable but no less profound is a sapping of confidence across our land – a nagging fear that America’s decline is inevitable, and that the next generation must lower its sights.

これらは、データや統計を前提とした、危機を示すものです。これよりも測りにくく、しかしより重大なのは、我々の土地に広がる自信の低下です。アメリカの落ち込みは避けられず、次の世代は目標を下げなければならないという、どうしても消えない恐れなのです。

Today I say to you that the challenges we face are real. They are serious and they are many. They will not be met easily or in a short span of time. But know this, America – they will be met.*3

今日、我々が直面している難問は現実である、と私はあなた方に伝えます。その難問は深刻で、数もたくさんあります。その難問は、簡単に、あるいは短い期間では解決されないでしょう。しかしアメリカよ、これらは必ず解決されるのです。

On this day, we gather because we have chosen hope over fear, unity of purpose over conflict and discord. *4

この日、我々は恐れよりも希望を、対立や不一致よりも目的の結束を選んだからこそ、我々は集まっているのです。

On this day, we come to proclaim an end to the petty grievances and false promises, the recriminations and worn out dogmas, that for far too long have strangled our politics.

この日、我々は、我々の政治を押さえつけてきた、ささいな不満やうその約束、非難や使い古した教義の終わりを宣言するのです。

(>下に続く)

<< 解説 >>

  1. ancestor(先祖)という言葉が演説の第1文から出てきましたが、オバマ大統領はこの就任演説の中で、このようにアメリカの過去/歴史を意識させる表現や内容をたくさん盛り込んでいます。
  2. オバマ氏は第44代目アメリカ合衆国大統領なので、これで全部で44人のアメリカ人が大統領の宣誓を行ったということになるんですね。
  3. 今のアメリカを襲う危機の現状について述べた後の、それらは「解決される」という力強い言葉に、この演説で初めての大きな歓声が観衆から起こりました。
  4. 恐れよりも希望、対立よりも団結、というスローガンは、オバマ氏が大統領選の時から繰り返してきたものです。

We remain a young nation, but in the words of Scripture, the time has come*5 to set aside childish things. The time has come to reaffirm our enduring spirit; to choose our better history; to carry forward that precious gift, that noble idea, passed on from generation to generation: the God-given promise that all are equal, all are free, and all deserve a chance to pursue their full measure of happiness.

我々は若い国ですが、聖書の中の言葉で言えば、子供じみたことを脇へおくべき時が来ました。我々の不朽の魂を再確認し、より良い歴史を選び、世代から世代へ受け継がれてきたこの貴重な贈り物、この崇高な考えを前進させる時が来ました。それは、すべての人々は平等で、自由であり、最大限の幸福を追求する機会に値する、という神から与えられた約束です。

In reaffirming the greatness of our nation, we understand that greatness is never a given. It must be earned. Our journey*6 has never been one of short-cuts or settling for less. It has not been the path for the faint-hearted – for those who prefer leisure over work, or seek only the pleasures of riches and fame. Rather, it has been the risk-takers, the doers, the makers of things – some celebrated but more often men and women obscure in their labor, who have carried us up the long, rugged path towards prosperity and freedom.

この国の偉大さを再確認する中で、我々は、その偉大さは決して与えられるものではないと理解しています。それは、勝ち得なければならないのです。我々の旅は、近道や妥協の一つでは決してありませんでした。それは、臆病な者-仕事よりも余暇を好み、富の喜びや名声のみを求める者-の道のりではなかったのです。それはむしろ、リスクを取る者、実行する者、様々なものを作る者-著名な者もいましたが、それよりも多い、目立たない労働に従事し、繁栄と自由のために長く険しい道をのぼってきた男女-の道のりだったのです。

For us, they packed up their few worldly possessions and traveled across oceans*7 in search of a new life.

我々のために、彼らは驚くほど少ない持ち物を詰めて、新しい生活を探し求めて海を渡りました。

For us, they toiled in sweatshops and settled the West*8; endured the lash of the whip and plowed the hard earth*9.

我々のために、彼らは労働搾取工場で長時間働き、西に居住したのです。鞭打ちに耐え、固い土地を耕したのです。

For us, they fought and died, in places like Concord and Gettysburg; Normandy and Khe Sahn*10.

我々のために、彼らは、コンコルドやゲティスバーグ、ノルマンディやケサンといった土地で戦い、亡くなったのです。

Time and again these men and women struggled and sacrificed and worked till their hands were raw so that we might live a better life. They saw America as bigger than the sum of our individual ambitions; greater than all the differences of birth or wealth or faction.

何度となく、これらの男女が奮闘し、犠牲を払い、自らの手がヒリヒリ痛むまで働いたからこそ、我々はより良い人生を生きているのです。彼らは、アメリカを我々個人の大きな望みの集まりよりも大きいものとして、誕生や富や党派のすべての違いよりも偉大なものとして見ていたのです。

This is the journey we continue today. We remain the most prosperous, powerful nation on Earth. Our workers are no less productive than when this crisis began. Our minds are no less inventive, our goods and services no less needed than they were last week or last month or last year. Our capacity remains undiminished. But our time of standing pat, of protecting narrow interests and putting off unpleasant decisions – that time has surely passed. Starting today, we must pick ourselves up, dust ourselves off, and begin again the work of remaking America.

これが、我々が今日も続ける旅なのです。我々は今も、地球上で最も栄えた、力ある国なのです。我々の労働者は、この危機が始まった時よりも生産性が低いわけではありません。我々の考えは、先週、先月、昨年よりも独創性に欠けるわけではなく、我々のモノやサービスが必要とされていないわけではないのです。我々の能力は衰えていません。しかし、一部の利益を守り、好ましくない決定を引き延ばしにする、変わろうとしない我々時代、その時代は確かに過ぎ去ったのです。今日から、我々は自ら立ち直り、体についたほこりをはらい、再びアメリカを再生する仕事に取り掛かるのです。

(>下に続く)

<< 解説 >>

  1. “the time has come…” (その時は来た)というフレーズは、大統領選の頃からよく使われているオバマ氏の得意なフレーズです。
  2. アメリカの建国からこれまでの歴史を”our journey” (我々の旅) と表現しています。これ以降、アメリカが通ってきた道/歴史に人々が思いをはせるような語りが続きます。
  3. 海を渡ってきた、というのは、まさに他の大陸から船に乗ってアメリカに流れ込んだ移民たちのことを表しています。
  4. そして東海岸に着いた移民たちは、アメリカ大陸の西を目指し、居住地を切り開いていきました。
  5. 鞭打ちに耐え、固い土地を耕したというのは、白人のもとで奴隷として働かされた黒人たちの境遇を表しています。
  6. ここで挙げられているのは、アメリカ独立戦争の戦地となったコンコード、南北戦争のゲティスバーグ(リンカーン大統領が演説した場所としても有名)、第2次世界大戦のノルマンディー、ベトナム戦争のケサンです。

(中略)

For as much as government can do and must do, it is ultimately the faith and determination of the American people upon which this nation relies.*11 It is the kindness to take in a stranger when the levees break, the selflessness of workers who would rather cut their hours than see a friend lose their job which sees us through our darkest hours. It is the firefighter’s courage to storm a stairway filled with smoke, but also a parent’s willingness to nurture a child, that finally decides our fate.

政府に何ができ、政府が何をしなければならないかということと同様に、この国にとって頼りとなるのは、つまるところ、アメリカ国民の信念と決意なのです。暗黒の時に我々が見るのは、堤防が崩れた時に見知らぬ人を助ける親切であり、仕事を失った友人を傍観するよりも自らの労働時間を削る労働者の無私の心なのです。我々の運命を最終的に決めるのは、煙に覆われた階段を突進する消防士の勇気であり、また、子供を育てる親の意思なのです。

Our challenges may be new. The instruments with which we meet them may be new. But those values upon which our success depends – hard work and honesty, courage and fair play, tolerance and curiosity, loyalty and patriotism – these things are old. These things are true. They have been the quiet force of progress throughout our history. What is demanded then is a return to these truths. What is required of us now is a new era of responsibility*12 – a recognition, on the part of every American, that we have duties to ourselves, our nation, and the world, duties that we do not grudgingly accept but rather seize gladly, firm in the knowledge that there is nothing so satisfying to the spirit, so defining of our character, than giving our all to a difficult task.

我々の挑戦は新しいものかもしれません。我々がそれに立ち向かう道具も新しいものかもしれません。しかし、我々の成功の拠りどころとなるこれらの価値観-勤勉と誠実さ、勇気と公正さ、寛容さと好奇心、忠実さと愛国心-は、昔からのものです。これらは、我々の歴史を通じて、前進のための静かな力となってきたのです。必要とされるのは、これらの真実に立ち返ることです。我々に今必要とされるのは、新たな責任の時代なのです。すべて一人一人のアメリカ人が、自分自身、この国、そして世界に対して義務を負っていることを認識し、その義務を嫌々受け入れるのではなく、喜んでとらえることなのです。そして、自らの全てを困難な課題に捧げることほど、信念を満足させ、我々のあり方を決定づけるものはないという考えを曲げないことなのです。

This is the price and the promise of citizenship.

これこそが、市民権の対価であり、約束なのです。

This is the source of our confidence – the knowledge that God calls on us to shape an uncertain destiny.

これこそが、我々の自信の源-神が、我々に不確定な運命を形づくることを求めているという教えなのです。

This is the meaning of our liberty and our creed – why men and women and children of every race and every faith can join in celebration across this magnificent mall*13, and why a man whose father less than sixty years ago might not have been served at a local restaurant*14 can now stand before you to take a most sacred oath.

これが、我々の自由と理念の意味なのです。なぜ、あらゆる人種、信仰の男性、女性、子供たちが、この素晴らしいモールに集まることができるのか。そして、なぜ、60年たらず前は地方のレストランで食事のできなかった父を持つ息子が、あなた方の前で最も神聖な宣誓を行うことができるのか。

So let us mark this day with remembrance, of who we are and how far we have traveled. In the year of America’s birth*15, in the coldest of months, a small band of patriots huddled by dying campfires on the shores of an icy river. The capital was abandoned. The enemy was advancing. The snow was stained with blood. At a moment when the outcome of our revolution was most in doubt, the father of our nation ordered these words be read to the people:

ですから、我々が誰なのか、我々がどれほど遠く旅してきたのか、という記憶と共に、この日の跡を残しましょう。アメリカ誕生の年、最も寒い時に、愛国者の小さな一団は、凍った川の岸辺で消えそうなたき火の回りに身を寄せ合いました。首都は見捨てられ、敵は近づいてきていました。雪は血に染まっていました。我々の革命の結果が最も疑わしくなった時、我が国の父は、人々にこれらの言葉を読むように命じました。

Let it be told to the future world…that in the depth of winter, when nothing but hope and virtue could survive…that the city and the country, alarmed at one common danger, came forth to meet [it].”

『未来の世界でこう語られよう-酷寒の中、希望と美徳しか生き残ることのできない時、共通する危険に気づいた街と田舎は、前に出てそれに立ち向かった』

America. In the face of our common dangers, in this winter of our hardship, let us remember these timeless words. With hope and virtue, let us brave once more the icy currents, and endure what storms may come. Let it be said by our children’s children*16 that when we were tested we refused to let this journey end, that we did not turn back nor did we falter; and with eyes fixed on the horizon and God’s grace upon us, we carried forth that great gift of freedom and delivered it safely to future generations.

アメリカよ。我々自身が共通の脅威に直面している時、我々自身の苦しい冬に、これらの時を超えた言葉を思い出しましょう。希望と美徳と共に、再び凍った流れに立ち向かい、どんな嵐の訪れにも耐えましょう。我々の子供たちの子供たちに、こう言われるようになりましょう。我々が試された時、我々はこの旅を終わらせることを拒み、後戻りすることもくじけることもありませんでした。地平線をしっかりと見つめ、神の慈しみと共に、我々は自由という偉大な贈り物を運び、未来の世代に無事に届けました、と。

Thank you. God bless you and God bless the United States of America.*17

ありがとう。神の祝福がみなさんにあらんことを。そして、神の祝福がみなさんにあらんことを。

<< 解説 >>

  1. 政府も最大限の努力をするが、アメリカは結局のところ一人一人のアメリカ国民によって支えられている、ということを言っています。ケネディ元大統領が就任演説で語った、「国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えよう」という言葉が思い出されます。
  2. このキーワード”new era of responsibility”(新しい責任の時代)は、日本のニュースでも注目されていました。上の11.とも共通しますが、アメリカ国民自身が自ら目覚め、自らを律していかないといけない、ということを説いており、オバマ大統領からの重要なメッセージとなっています。
  3. この大統領就任式が執り行われた場所(モール)のことです。
  4. 60年前、アメリカでは人種差別が行われ、白人と黒人では社会の中での扱われ方が全く異なっていました。使うトイレや食事をする所も分けられていたのです。そんな黒人の息子=自分が、こうして大統領になったことの意味の重大さをオバマ氏は説いているのです。
  5. アメリカの誕生、つまり、独立戦争の時のことです。
  6. ancestor(先祖)について述べて始まった演説は、chileren’s children(子供たちの子供たち)と締めくくっています。アメリカの歴史-過去、現在、未来-を強く意識させる演説ですね。
  7. このようにアメリカ国民とアメリカ合衆国に「神の祝福を」と言うのは、アメリカの大統領の演説最後の決まり文句のようになっています。God(神)という言葉が演説の中で度々出てきたことからも、アメリカという国の宗教色の強さがうかがえますよね。日本とは大きく異なります。

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